TADANO社長挨拶

世界に、そして未来に誇れる企業を目指して

創業100周年を超えて

100年の歴史

香川県高松市で生まれた創業者多田野益雄は、1919年8月北海道旭川で溶接業を立ち上げました。当時は、海外において溶接技術が発展し、日本にも導入され始めた頃でした。当時の先端技術であった溶接の火花に魅了され、溶接技術を身に付けた上で、北海道で事業を興しました。

数年後に拠点を室蘭に移しましたが、真面目で真摯に取り組む姿勢と緻密な仕事ぶりが評価され、事業そのものは順調でしたが、1923年に関東大震災が発生。日本全体が混乱に陥る中、帰郷を決意したようです。高松に戻ってからは、溶接業に加え、様々な事業に取り組みました。一時期は銅鉱山を保有していたこともあったそうです。

そして、第二次世界大戦では、終戦間近の1945年7月に高松市も激しい爆撃を受け、市街地の8割が焼失しました。何もかも失くし命だけが残った終戦から3年後の1948年に、タダノの前身である(株)多田野鉄工所を立ち上げました。4人の従業員と24坪の工場からの小さなスタートでした。祖業である溶接技術と、強い力を生み出せる油圧技術を組み合わせて、何か新しいものはできないかと試行錯誤を繰り返しました。そこにあったのは、ただ「世の中のお役に立つものを創りたい」「世の中の発展に貢献できる企業になりたい」という創業者の素朴で一徹な思いでした。そして、1955年に日本で初めてとなる油圧式トラッククレーンOC-2型を開発しました。これが、クレーンメーカーとしてのタダノのスタートとなり、現在に至っています。

おかげさまで、2019年8月29日に、創業100周年を迎えることができました。

不易流行

100年を超える長寿企業に共通することは、「不変」と「革新」を併せ持つことだといわれています。松尾芭蕉が説いたとされる「不易流行」はまさにその意味であり、不易=変わらないことと、流行=変わることをどう併せ持つかが大切だと考えています。

今の時代、創業100周年を迎えたからといって、10年後、20年後が保証されているわけではありません。だからこそ、時代に流されることのない、しっかりとした軸を持ち、時代の変化に合わせて、変えるべきところは柔軟に変えていく。そうあるべきと捉えています。

「不易流行」を当社に置き換えれば、事業ピラミッドの上3段、「事業目的」「ビジョン」「コアバリュー」が不変の理念・価値であり、「不易」にあたります。当社の事業目的は、経営理念「創造・奉仕・協力」の実現であり、ビジョンである「世界に、そして未来に誇れる企業を目指して」とコアバリューを合わせて、タダノが存続する限り、これらは絶対に変えてはならないものだと考えています。
 なお、これまでコアバリューは、「安全・品質・効率」で、Safety・Quality・Efficiencyの頭文字をとって「SQE」と表現していました。このSQEに「コンプライアンス」の「C」を追加し、「C+SQE」(SQE based on C)とすることにしました。安全第一・品質第二・効率第三という優先順位はどんな時も変わりませんが、いずれもコンプライアンスという土台がしっかりしてなければならないということを、改めて明文化したものです。

事業ピラミッドの4段目「事業領域・長期目標」から下は、「不易流行」の「流行」であり、時代の変化に合わせて柔軟に変えていきたいと考えています。とは言え、事業領域・長期目標は頻繁に変えるべきではなく、10年から20年はキープできるものでありたいですね。

事業特性を踏まえた経営

LE業界は景気の波に左右されやすい特徴

油圧ショベルなどの建設機械と比較すると、建設用クレーンなどLEは耐久性に優れ、寿命も長く、中古車としての価格が高いのが特徴です。当社のお客様に関しては「壊れたから買い替える」というよりは、景気が良くなったら新しい製品に買い替え、景気が冷え込むと買い替えを待つ傾向にあるという投資行動があります。つまりLEは、他の建設機械と比べて景気の波に左右されやすいという特徴があるのです。

外部環境の影響を受けやすい企業の経営者として、「これは景気サイクルなのだから仕方ない。需要が回復すればまた黒字になる」と開き直る選択肢もあるのかもしれません。しかし私たちは、LEという分野で需要がアップダウンするという宿命を受け入れた上で、それをどう乗り越えるかが大きな課題だと考えています。「想定外」という言葉をよく聞きますが、想定外のせいにせず、それを織り込んでいける強い会社を作りたいです。

この考え方を具体的に表現したのが「4つの矢印」の話です。

4つの矢印

4つの矢印

【青】は空の色であり、天候のごとく、複雑に変化する市場・需要動向や為替(外部環境)を指します。【赤】は情熱の色であり、自助努力=自分たちが頑張ればなんとかなる・コントロールできることを指します。【黄】は黄金の色であり、新工場建設やM&Aといった大きな投資を指します。3つの色を合わせると【黒】(利益の色)になります。
 私たちは【青い矢印】に一喜一憂することなく、自分たちがコントロールできること【赤い矢印】に集中することが大切だと考えています。良いときも悪いときも弛まぬ努力を続け、毎期ごとに、結果を出しながら質的に成長していく=【赤い矢印】が常に右上を向いている、そんな企業でありたいと考えています。

過去の当社は、需要が高まれば業績も良化し、喜んでいました。需要が低下すれば業績も悪化し、慌てていました。業績の主要因は需要動向でありながら、ただ結果に一喜一憂を繰り返していました。そこから脱却するために「4つの矢印」を設定したわけですが、その中でも特に赤い矢印が大切です。また現代は予測しづらい世の中であり、青い矢印に対して予測・準備・対応することも大切ですね。いつ変化が起きてもいいように、常に両様の構えをしておきたいと考えています。

赤い矢印に集中

忘れてはいけないこと

いつも社員に伝えている「当社が絶対に忘れてはいけない3つの重要な出来事」があります。1つ目は1998年から2002年にかけての不況期に3回の人員整理をしたこと。2つ目は2004年のリコール問題、3つ目は過去4件発生した労災死亡事故です。

以降、当社は「人は財産である」という考えのもとで「人材」を「人財」と表記し、人財育成へ更なる注力をしています。また「私たちの製品は公道を走らせていただいている」との気づきを得て、CSR(企業の社会的責任)に力を入れるようになりました。そしてどんな時も絶対に譲れない価値観としてコアバリュー(安全・品質・効率)を定め、「安全」を全てに優先させるようになりました。

新たな成長に向けて

複雑・高速・極端に変化する時代

今、世の中は歴史的に見て大きな不安定期に入っており、世界は複雑・高速・極端に変化する時代を迎えていると感じます。政治の世界でも主要先進国が指導力を失い、指導者不在の「Gゼロ」時代と表現する人もいます。政治の不安定さが、景気・経済にもつながっており、予測しがたい自然災害も発生しています。技術の進化も急速で、世の中のあり方を大きく変えるような技術革新がもたらす、いわゆるエクスポネンシャルな(指数関数的な)変化が少しずつ見え始めています。変化はひとたび顕在化すると、劇的・爆発的に拡がり、社会を変えていきます。LE業界にもそのような変化が迫っていると考え、対応していく必要があります。

技術革新による大きな変化

当社は1955年に日本初の油圧式クレーンOC-2型を開発し、60年以上にわたって、基本的には「より重いものをより高く・遠くへ」運べる技術開発を進めてきました。2017年には「技術研究部門」を独立し、更なる技術革新を進めています。

たとえば私たちの製品が活躍する「建設業界」では、特に日本においては、少子高齢化による生産年齢人口の減少、建設就業者の減少が大きな問題になりつつあります。クレーンを自由自在に操作できる熟練オペレータも減りつつある中で、技術革新によってクレーン操作をより簡略化・容易化・自動化することで現場の安全性を向上させる方向に行かなければなりません。将来的にはEVや自動運転可能な機械を世に送り出すことになるでしょう。

ただし、建設用クレーンは走行姿勢と作業姿勢の切り替えに始まり、ブームの長さや角度などによって様々に状態が変化(トランスフォーム)する機械です。機械の状態が変わっても転倒しない、安全で安心できる製品を送り出す必要があります。建設現場の中で当社製品だけが技術的に突出しても意味がなく、全体の作業効率をどう引き上げるかの方が重要です。また、地球環境に優しい機械でなければなりません。建設現場におけるクレーンの役割自体も考え直す時に来ているのではないか、という問題意識から、京都大学と包括連携共同研究契約を締結しています。また他にも多くの大学・パートナーとAIなどの個別テーマでも研究に取り組んでいます。

Demagブランドのクレーン事業

2019年7月末にDemagブランドのクレーン事業買収が完了し、8月1日に受け皿である新会社タダノ・デマーグGmbH(=TDG)がスタートしました。同日、ドイツ・ツバイブリュッケンにおいてTDGの全社員を集めてDay1イベントを開催し、当社の経営方針や基本的な考え方などを説明しました。TDGは吊り上げ能力1,200トンまでのフルラインナップのオールテレーンクレーンと、吊り上げ能力400トンから3,200トンまでのラインナップのクローラクレーンを有しています。

重要テーマと打ち手

グループシナジー最大化(+TDG)

香西工場
香西工場の概要
名称 香西工場
所在地 香川県高松市香西北町
敷地面積 約20万m2(約6万坪)
建物延床面積 約4.7万m2(約1.4万坪)
投資額 約200億円以上
社員数 約100人

2018年12月にスタートした、インドの合弁会社タダノ・エスコーツインディアPvt.Ltd.(=TEI)、2019年8月に稼働を開始した新工場である香西工場、そしてタダノ・ファウンGmbH(=TFG)とTDGを有するドイツ事業。これら3つがそろったことによって、タダノグループはLE世界No.1に向けた一里塚である売上高3,000億円を目指し、突破できるだけの「材料」は集まったことになります。それらをどう「料理」するかが目の前の大きな課題となりますが、今後はアメリカのタダノ・マンティスCorp.(=TMC)やタイのタダノ・タイランドCo., Ltd.(=TTC)も含めて、「長期的な利益成長」を目指すために、グループシナジーを最大化する努力をした上で、One Tadanoとして「オーガニックな成長」に最大限注力していく考えです。

グループシナジー最大化(+TDG)

耐性アップ

需要の波に左右されない=耐性アップの6つの鍵として「ふところ深く」「身軽に」「柔軟性」「分散」「俊敏」「質の向上」のキーワードを設定しています。LE業界はボラティリティが高い業界だけに、いかにして「抗変動性」を高めて、安定的な成長性を手に入れるかが大きな課題と考えています。

競争力強化

LE世界No.1を目指すために、競合メーカーが10年かかっても追いつけないくらいの差をつけたい。そこでタダノグループのコアコンピタンス(=競争力の源泉)である「製品品質」と「(部品を含めた)サービス力」に、「商品力」と「中古車価値」を加えた「四拍子そろったメーカー」を目指しています。

単純に考えれば、製品の販売価格を上げて原価を下げれば、利益は高まります。しかし事はそう簡単ではありません。売価を上げて、競合との比較でシェア・売上が落ちては意味がありません。いかに売価を維持・改善しながらシェアを高めていくか。お客様の目線で見て、本当に世の中とお客様の「お役に立つ機械・サービス」を当社が提供できるかどうか。そして、安全で安心して、しかも効率良く使っていただける付加価値を創造できるかどうかだと思います。ライバルとの比較の中で「四拍子がバランス良くそろったメーカー」になりたいと考えています。

「志」を持って、未来へ向かう

タダノにとっての成長とは

再度強調しますが、私たちは【青い矢印】に一喜一憂することなく、自分たちがコントロールできること【赤い矢印】に集中しよう、ということを基本の考えとしています。赤い矢印に集中し続けることにより質的な成長の継続は可能であり、当社の成長の度合いは変動する「業績サイクルの波」を1つ前のものと見比べることで確認できると考えます。

具体的には、過去18年間の業績(売上高と営業利益率)の推移をグラフで見ていただきたいのですが、02年度から始まり、07年度にピークを迎えた波は、リーマン・ショックを契機に急落しました。しかし10年度を底に、そこから始まった次のサイクルを見ると、後者のグラフにおける売上高と営業利益率は、前者を大きく上回っています。これこそがタダノグループの成長を示しています。もちろん常に増収増益であれば言うことなしですが、「変動する波を1つ前より必ず上回ること」それこそが成長だと考えています。「青い矢印の影響で減収減益となってしまっても、質的な成長は可能だ」ということを、社員には言い聞かせています。

タダノにとっての成長とは

誇れる企業を目指して

リーマン・ショックによる急激な需要減少に耐え切れず、10年度に過去最大の赤字を計上した経験から、中計(11-13)では構造変化への適応を進め、中計(14-16)・中計(17-19)では『「強い会社」に(赤い矢印への集中)』を基本方針として取り組んできました。まだまだ脆弱さは残っていますが、それでも以前に比べればだいぶ「強い会社」になってきたのでないかと感じています。

一方で、それによる弊害も見られるようになってきました。「強い会社」は「良い会社」の一つの側面に過ぎません。「良い会社」を目指すためには、まずは「強い会社」にならなければと考えていたのですが、バランスを欠いていたことも事実です。創業100周年を迎えたことを大きな節目として、そして、先ほどの話の通り、次のステップに向けた材料がそろってきたこともあり、中計(20-22)からは、もう少しバランスの取れた基本方針とすることにしました。

それは、当社の事業ピラミッドの2段目「ビジョン=世界に、そして未来に誇れる企業を目指して」の中にある「誇れる企業」を目指すということです。タダノが「誇れる企業」になるためには、ステークホルダーであるお客様・取引先・株主・投資家・社会それぞれから評価・支持され、それを継続できる企業でなければなりません。そして、何よりもタダノで働く社員が自社に誇りを感じられるような企業でありたいと考えています。

そのためにも、ESG・SDGsを今まで以上にもっと明確に企業経営に取り入れていこうと考えています。

目の前の闘い・時代との闘い

これからは、「目の前の闘い」と「時代との闘い」、私たちはこの二つの闘いを同時に制していかなければいけません。まず「目の前の闘い」に打ち勝つ。毎期・毎月の目の前の闘いを制し続けなければ明日はありません。しかしその連続だけでは、今日を生き延びることはできるかもしれないが、未来はないのではないか、と思うのです。

IoTやAIの活用が急速に広がり、自動車やトラックは、内燃機関の搭載を止めて電気で動く方向に進もうとしています。技術的変化が世の中を変える、とても大きな変革期を迎えつつあります。この「時代との闘い」を制していかなければ私たちの未来はありません。

大切にしたい「志」

私たちは将来に向かって何をやりたいのか?と言いますと、長期的な利益成長ということになります。しかし、それはあくまでも目標であって目的ではありません。経営理念である「創造・奉仕・協力」を実現すること、それを永遠に求め続けることが当社の事業目的です。この経営理念やビジョン・コアバリューは不変のものです。

「社長がこう言ったから」あるいは「上司がこう言ったから」ということではなく、この不変の理念・コアバリュー、そしてその時々に会社が決定した長期目標・方針に忠実である会社でありたい、と考えています。上司が言ったことに対して、部下が「それはうちの方針に合っていませんよね?」と正しい方向に意見して議論できるような会社でありたいですね。

創業当時の「世の中のお役に立つものを提供したい」「事業を通じて世の中に貢献できる企業でありたい」という思いを大切にしていきたいと考えています。社内では昔から言われてきた「儲かると儲けるは違う」という話をしています。「儲ける」=利益を目的にすると会社は歪んでしまいます。ドラッカーは顧客の創造と説明しましたが、「世の中のお役に立つ、貢献することで、自然と儲かる会社」であることが大切。創業当時から続く「志」を今後も大切にしていきます。


     

「2019年度統合報告書」より引用。統合報告書はこちらをご覧ください。

大切にしたい「志」

代表取締役社長多田野 宏一

1954年、香川県高松市生まれ。丸紅株式会社を経て、1988年株 式会社タダノに入社。1997年にドイツのグループ会社FAUN GmbH(当時)の社長に就任。また同年タダノ取締役にも就任。2003年に株式会社タダノ代表取締役社長に就任し、現在に至る。